大阪高等裁判所 昭和38年(ラ)218号 決定 1963年12月26日
抗告人 和田秀雄 外五名
主文
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人等の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨、理由は別紙のとおりである。
案ずるに、調停の申立があつた事件について訴訟が係属するとき、当事者の合意のない限り、訴訟事件について「争点及び証拠の整理が完了した後において」は、受訴裁判所は訴訟手続を中止しえないことは、民事調停規則第五条に規定するところである。本件訴訟と調停との間に事件の同一性があるか否かの点はしばらく措くも、右にいう「争点及び証拠の整理が完了した後において」とは、訴訟手続が準備的段階を終つた後においてとの意味と解すべきところ、記録を調査すると、本件訴訟手続はすでに準備的段階を終り、証拠調もその大半を終了していることが明である。しかるに原審が、調停の申立あつたことを理由に本件訴訟手続の中止決定をしたことは、訴訟的解決を求める当事者の意思を尊重し、併せて訴訟遅延を防止することをも目的とする右規定の精神に反するものというべきである。
しかし、右中止の裁判は、民事調停法第二一条にいう調停手続における裁判ではなく、民事訴訟手続上の決定であつて、裁判所の訴訟指揮権にもとずくものなること疑いなく、これに対し抗告をもつて不服申立をなすことを許した規定が存在しないから、右中止決定に不服ある者は当該裁判所の職権の発動を促して民事訴訟法第二〇五条により決定の取消を求めるの外なきものである。
本件抗告は不適法であつてその欠缺を補正することができないからこれを却下すべく、民事訴訟法第八九条に従い、主文のとおり決定する。
(裁判官 岩口守夫 藤原啓一郎 岡部重信)
別紙
抗告の趣旨
奈良地方裁判所五条支部が昭和三十八年十月十五日なした右当事者間の昭和三四年(ワ)第二八号境界確認事件の訴訟手続を中止するとの決定はこれを取消す。
との裁判を求める。
抗告の理由
一、奈良地方裁判所五条支部は昭和三十八年十月十五日右当事者間の昭和三四年(ワ)第二八号境界確認請求事件の訴訟手続は本件被告西林俊一の申立てた昭和三八年(ノ)第一号共有地分割請求事件の調停終了に至るまでこれを中止するとの決定をなし、同決定正本は原告訴訟代理人において同月十八日その送達を受けた。
二、しかしながら本案裁判所が民事調停規則第五条により訴訟手続の中止を決定し得るのは本案訴訟の目的そのものについて調停の申立のなされた場合に限るのである。しかるに本案訴訟の目的は原被両告所有の山林の境界の確認を求めるものであり、また本件被告の申立てた右調停は原告所有名義の共有地の分割を求めるというにあつて、本案訴訟の目的になんら関係のない事項の調停を求めるにある。したがつてこの本案訴訟に無関係な調停の申立により訴訟手続の中止を命ずることは法的根拠がない。
三、また仮りに本案訴訟の目的自体につき調停の申立のある場合でも訴訟事件が争点および証拠の整理が完了した後においては当事者の合意がない限り中止決定のでき得ないことは明文の定めるところである。しかるに本件中止を命ぜられた本案訴訟は昭和三十四年九月八日の第一回口頭弁論以来今日まで満四年間数十回の口頭弁論を経、且つ二回に亘り弁論の終結をしたものであつて当事者主張の争点および証拠の整理は既に完了しているのである。なお民事調停規則第五条のいわゆる「証拠の整理が完了した」というのは「証拠調に着手する程度に達した」ことを意味することは学説の一致するところである。
四、要するに被告が全く無駄とも見える調停の申立をすることは(分割請求の法律上許されないことは調停事件において述べることにする)本案訴訟の延引策以外のなにものでもない。
現在遅延の弊ある訴訟の促進に寄与しようとする法曹人は右の如き術策に乗じられてはならない。